石の都岡崎の彫刻技術は日本一ともいわれています。その岡崎の石材彫刻を代表するのが成瀬さんです。
毎年行われている新制作展では、第二十回より連続五回入選し、なかでも迫力を持ってせまる狛犬の彫刻には観る人の心を打つ名人の気魄が伝わってきます。
昭和十八年、実家の成瀬石材店に就職して以来、独自の技法を習得し、技術の研さんはもちろん業界の振興発展にも尽力している成瀬さん。岡崎石工団地の集団化と事業推進に当たっては部長として、その中心になり研究、指導を続けてきました。
あらゆる分野で機械化が進んでいる現在でも、石の彫刻は、やはり作業者の手に負うところの大きい、経験の積み重ねによる技術が必要な仕事です。通産省の伝統的工芸品(石工品)の指定を受け、その伝産委員長を努める成瀬さんにとって、後進の指導、技術の伝承は課題の一つでもあります。
三十六年に職業訓練指導員の資格をとり、職業訓練校の講師として後進の指導に当たり、現在は訓練校の幹部として、なお一層の努力をはらっています。また技術検定の中央技能検定委員としても長年にわたって活躍し、後進の技術指導など、現在も一日三時間はそれに当てています。
自らは成瀬石材商会の代表として経営、管理に携わりながら、第一線でその製作に取り組んでいる成瀬さん。事業所にも毎年、全国よりその優秀な技術を頼りに、多数の若い人たちが訪ねてきますが、一人ひとり親切に指導、相談にのっています。五十一年には愛知県優秀技能者、五十六年には愛知県伝統工芸品産業功労者表彰を受け、ますますその腕に磨きをかけている成瀬さんです。